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第一三〇話    生命という賭け金




「さぁ、逃げるぞ。可及的速やかに」

「楽しかった。痛快」

 トウカとヘルミーネは笑みを零す。

 一世一代の茶番劇。

 アリアベルを騙して足止めしつつ城郭諸共爆破するという計画だったが、クロウ=クルワッハ公爵の乱入によって作戦の大部分は頓挫した。しかしながら、ア リアベルとアーダルベルトに手痛い“一撃”を与え、被害比率では未だ北部統合軍は圧倒的有利のままに致命傷も受けてはいない。

 優勢のままに主戦場を移す。

 それが北部統合軍の公式見解となる。

 だが、撤退に次ぐ撤退であり、後退に次ぐ後退であることは変わりない。挙げ句に、その優位は砲弾備蓄を惜しまないが故のものである。

 雲霞(うんか)の如く群がるだけの敵であれば対 処のしようがあったが、征伐軍の基幹戦力は陸軍将兵であり、正規軍だけあってその運用は慄然としたものである。特に正規軍の下士官が適正な数を配置されて いるとなると壊乱させることは容易ではなく、勢いに乗じた戦果の拡大という方法が取れない事こそが致命的であった。軍同士の戦闘で最も被害を拡大させるこ とができる戦況とは追撃戦なのだ。無論、その点を踏まえれば敗走が続いている中でも相手の迫撃の悉くを阻止しているトウカは、中々の名将振りを見せている と言える。


「しかし、中央貴族は……いや征伐軍が中央貴族に糾合されたとなれば、帝国も介入を急ぐだろう」

 帝国に最も望ましいのは、中央領邦軍及び征伐軍連合と北部統合軍が衝突し、一方が敗れ去った後にこれを討つというのが戦力比からしても最善である。帝国 側としても金食い虫の大動員を続ける限界と下手に時を待つことで講和されて一勢力となることを恐れているはずであった。トウカであれば妥協して現時点で侵 攻を開始して二勢力を相手取ることを選ぶだろう。攻撃開始時には一方が敗れ去っている可能性もある。

 相互理解が進まない状況で両軍が帝国と相対した場合、一本化されていない指揮系統と兵站、連携の取れない部隊で戦うことになる。場合によっては、一勢力となった皇国と戦うよりも両軍を相手取った方が帝国にとって有利となる局面を作り出すことは不可能ではない。

 だが、それこそトウカの望むところであった。

 予定は大幅に誤差を生じて繰り上げとなったものの、中央貴族という思惑も分らない得体の知れない勢力を戦場に引き摺りだす手間が省けたとトウカは狂喜していた。

 アーダルベルトもアリアベルも、トウカが追い詰められていると考えているだろう。

 しかし、実情としてはトウカの思惑以上に望ましい展開に推移していた。

 同時に帝国の望む展開でもある?

 大いに結構である。

 それで、この極めて劣勢な内戦を終戦、或いは停戦に持ち込めるならば安いものである。

 ――それに皇国の民衆は自身が如何なる脅威に晒されているか理解すべきだ。

 自身がその脅威に晒されて分かることもあるだろう。

 少なくとも、それなくしては皇国の将来に確信が持てず、脅威を煽動して挙国一致体制を築くには時間も能力も足りない。物理的な悲劇を以て国内世論を画一化するしかなかった。

「その駄猫に爆薬を巻き付けておけ。ヴァレンシュタイン少将の撤退が間に合わないだろうから、それで時間を稼ぐ」

 トウカはヘルミーネに手早く指示を出すと小屋を見回す。

 城郭からかなり離れた位置にある小屋には通信装置や動画撮影機が置かれて、室内は城郭の天守を模した造りをしていた。

 つまりこの部屋で撮影された映像を、城郭の天守内を分断するように執務机前の乳白色の硝子に転写することで、あたかもその場にいるように偽装したのだ。 本来であれば投影魔術によって成されるそれは、トウカの提案によって投影に魔力を使わない機械式のものが使用された。それ以外の部分は魔術的な機構を多用 しているが、魔術的に密閉することで魔力の放出を完全に抑えることに成功した。

 マリアベルによる宣伝戦略(プロパガンダ)の一環として、映画撮影に使用するべく試作されていたものを転用する形であったが、トウカの想像以上に上手くいった。室内で程度の距離を確保する為、アリアベル達との間の空間に書類や書籍を散乱させた理由はそこにある。近づけば近づかれる程に露呈する可能性があった。

 無論、トウカの演出などなくとも、アリアベルが城郭に足を踏み入れた時点で爆破すれば解決していた話だが、隷下の将兵の撤退の時間を稼ぐ必要があった。城郭内により多くの征伐軍将兵を招き入れたいという思惑もあり、トウカは時間稼ぎを行った。

 結果は、アーダルベルトの介入で不完全なものとなってしまったが、中央貴族の介入時期が致命的な状況ではなかったことをトウカは安堵していた。

 ――中々どうして上手くはいかないか。要らぬ欲をかいた。

 トウカの思案を余所に、床に簀巻きにされて転がるレオンディーネに爆薬を仕掛けるヘルミーネ。

「むぅ、ならこの無駄に大きい胸にこう爆薬筒(ダイナマイト)を挟んで……」

「それより城郭に仕掛けられた爆薬は何故、起爆しなかった?」

 仕掛けた爆薬は既に有線で起爆準備に入っており、あと少しの時間を以て魔導炉の暴走と合わせて大爆発となるはずだったが、何故か爆発していない。アーダ ルベルトが天守にいた以上、何かしらの対応を取ったことは明白であるが、魔術的な技術が介在している以上、トウカには予想できない部分も多い。

「障壁が展開している時点で城郭内にいた上に、短時間で解決するには膨大な魔力が必要……それと高度な魔導知識」

 旧式とは言え戦艦の魔導炉を圧倒し得る魔力と、それを十全に運用し得る知識。そして、アーダルベルトが天守に立っていたという状況。

「他の七武五公か」

 クロウ=クルワッハ公爵であるアーダルベルトだけが内戦の解決に一役買うというのは、中央貴族内部の不均衡を招く恐れがあり好ましくないはずである。と すれば主要な種族の中心的な存在、ケーニヒス=ティーゲル公爵やフローズ=ヴィトニル公爵など……他の七武五公であることが望ましい。何より七武五公は中 央貴族内で有力な領邦軍を有しており、空挺を意図して〈航空義勇軍〉の輸送騎に搭乗しているのは、それらである可能性が高かった。

 アーダルベルトという中央貴族の指導者層の一人が現れた以上、他の七武五公も最前線に降り立つことを躊躇う人物とは思えない。北部統合軍側に明確に味方 している唯一の七武五公であるシュトラハヴィッツ少将による前線での勇戦を踏まえると、寧ろ十分にあり得ることである。アーダルベルトに匹敵する才覚と果 断さを持った人物が幾人も増えるという事実は喜ばしいこととは言えないが、救いのある状況で旗色が鮮明と捉えることもできる。

「まぁ、上手く負けた後、我々がそれ相応の地位を堅持し続ける為には七武五公……特に五公爵の一人は殺しておくべきか。……戦力を削ぐだけでは解決しないとは。面倒な」

「この時期に中央貴族が出てくるなんて予想外。軍団規模の空挺なんて誰にも予想できなかった」

 空挺。

 トウカとしては最終的に敵地に降り立つ訳ではなく、北部統合軍が撤退後の平原に降り立つことを踏まえれば空挺というよりも航空輸送であろうと考えたが、あれ程の規模の航空戦力が存在するならば予想して然るべきであった。

 航空輸送という手段は軍の移動速度を飛躍的に向上させ、より近代的な戦術を可能とする。無論、その規模を限界まで引き上げて戦略規模で行ったアーダルベルトの手腕と才覚には呆れるしかない。

 アーダルベルトは航空戦力の本質を理解している。

 否、トウカのベルゲン強襲が気付かせたのだ。

「責任を取らねばならないか」

「……次は何処の高位種を手籠めにしたの?」

 ヘルミーネの頭を叩き、トウカは溜息を一つ。

 暫くして小屋の周囲を警護していた軍狼兵中隊の中隊長が、撤退準備完了の報告をしてきた為、トウカは即座に撤退指示を出す。

 こうしてエルゼリア侯爵領攻防戦は、北部統合軍の戦術的勝利、戦略的敗北となった。







 妙齢の神狼は小さく溜息を一つ。

 流れるような漆黒の髪に極めて女性らしい身体付き。それを天女と見紛うばかりのひらひらと天を舞う縫い目のない着物……天衣を見事に着こなし、羽衣の様な肩掛け(ストール)で身を包んだ姿はある種の幻想的な光景ですらあった。

 しかし、その天衣は漆黒に染め上げられ、背には皇国国旗の紫苑桜華を模した金糸の桜に銀糸で神狼が刺繍されており、その立場を明確にしている。縫い付けられた腕章や肩章なども元帥を示しているが、それ以上に立場を主張するそれに対して敬礼する者も少なくない。


 神狼族の頂点たるフェンリス・ルオ・フォン・フローズ=ヴィトニル公爵。


 七武五公、五公爵が一人であった。

「これがⅣ号中戦車……」

「はん! 何呆けた目で眺めているんだ。糞婆ぁ。こんな鉄屑が役に立つわけがないだろうが。皇国は北部の平原ばかりじゃないぞ」

 青を基調とした軍装を身に纏った雄々しい中年の言葉に、フェンリスは呆れるしかない。アーダルベルトやフェンリスと比して若くして七武五公の一人となった神虎の脛を蹴り飛ばし、フェンリスは雪原に擱座して放棄されたⅣ号中戦車の車体に背を預ける。

 ――突撃莫迦は相変わらずね。陸軍が世界に誇っていた〈中央軍集団〉の機動師団がこの鋼鉄の野獣によって壊乱の憂き目にあったことを忘れたのかしらね?

 正規の軍務経験はないが、知識の面では十分なものを持っているフェンリスは呆れつつも頷く。神虎の苦々しい顔に周囲の兵に気を使っての言動だと察したのだ。


 レオンハルト・ディダ・フォン・ケーニヒス=ティーゲル公爵。


 荒々しい出で立ちと雰囲気であるが、兵を気遣うことを忘れない神虎……レオンハルトにフェンリスは小さく微笑む。気まずさを感じたレオンハルトが頬を掻いて顔を背けると周囲からは小波の様な笑声が零れる。

 牙を剥いて笑う将兵を追い散らしたレオンハルトを横に、フェンリスは冷たい戦車の装甲へと手を這わせる。

 戦争とは何か、英雄とはいかなるべきものか? 

 それは、ある種の永遠の課題と言えるものであり、戦争や英雄の在り方など時代や世情に即したものへと変遷する不確定なものに過ぎない。ベルセリカ・ヴァ ルトハイム、フランドール・アーベルジュ、クルルシエル・クルクハイム……幾多の英雄が皇国を護る為に生まれ、そして血を流し、中には戦野で朽ち果てた者 も少なくない。

 だが時代は変化した。最早、英雄なるモノはこの時代には必要ない。

 現在の皇国北部に於ける内戦。

 それは本質的にヒト同士が相対して鎬を削る闘争ではなく、組織や機構(システム)同士の衝突であり戦闘だった。そこに必要とされるのは勇猛果敢な装虎兵や縦横無尽に戦野を掛ける軍狼兵ではなく、確固たる情報優越と迅速な兵力展開、集約された指揮系統から導かれる統一戦略下で無駄なく行使される戦術行動。

 それらを踏まえれば北部統合軍の善戦は妥当なものでしかなく、至極当然のものと言える。

 短期間で指揮系統を統一し、戦闘教義(ドクトリン)を周知徹底させる。

 そう簡単なことではない。否、極めて困難なことである。

 ――違うわ。装甲部隊を除く前線部隊の一つ一つに与えられた行動は既存のものだった。

 〈装甲教導師団(パンツァーレーア)を主力とした装甲部隊は森林地帯を排土板(ブレード)で なぎ倒しながら征伐軍側面を奇襲するという奇策に出たが、それ以外、中央に位置するベルセリカ隷下の主力は塹壕陣地による段階的な後退であった。装甲部隊 による征伐軍側面に対する奇襲後の反撃に転じた際、〈第一軍狼兵聯隊『ヴァナルガンド』〉を主体とした三個軍狼兵聯隊による正面からの対砲兵吶喊(カノーネンヤークト)も既存戦術でしかない。

 それでいて塹壕やそれを防護する障害物、軽火器などは更新されていた。

 つまりサクラギ・トウカという人物は、時間の制限がある中で正確に可能なことと不可能なことを取捨選択しているということになる。

 時間を与えれば、加速度的に完成度を増した軍勢が成立することになる。

「鬼才ね……戦術や戦略ではなく、それを行使する為の組織を構築するなんて。若者は戦場では戦機に逸るのが常なのだけど、トウカ君は例外の様ねぇ。是非、私の領邦軍に欲しいわ」

 その彼を逃し、時間を与える結果となってしまった。後日、その後悔は、大きな海嘯となって征伐軍を襲うだろう。

 サクラギ・トウカの神髄は、組織の構築や損益計算という政治家や官僚寄りの発想で戦争を指揮している部分にこそあることを、フェンリスは見抜いていた。

 その戦果から戦略家としての部分を重視する人物が多いが、実際は配下の兵力が最大限に行動できるような組織構成や、全体の底上げを意図した新兵器慣熟や戦術の周知徹底に重きを置いているという点こそを評価するべきであった。

 若しかすると、サクラギ・トウカは北部統合軍参謀総長を引き受けた時より、否、戦争が始まった時点で終戦という結末を頭に描いていたのかも知れないと、 フェンリスは表情を引き締める。実際は止むに已まれぬ状況の連続がトウカに起きただけなのだが、生じた幾つもの戦果はトウカを各方面で過大評価させていた ことは皮肉と言えた。

 決戦に合わせた北部統合軍の成立による指揮系統の完全な一本化や、エルゼリア侯爵領までの無駄のない後退戦。だが征伐軍は進撃している、新兵器や既存のものとは違う戦術に苦しめられているが、最終的には数で押し切れる。

 ――そう希望を抱いていた征伐軍の将校達は最後まで気付かなかったわ。負ける寸前。その最後まで。

 あと一歩で征伐軍最高指揮官であるアリアベルは生命を喪うところであった。彼らは、サクラギ・トウカの掌中で踊らされていること等など想像すらしていなかったに違いない。

 そして、一見するとその力の根源に見える高い打撃力の装甲車輛だが、本質はそこではなく、その速度に合わせて編成された部隊で軍勢を編成したが故の移動速度にこそある。

 周辺諸国の軍の機動力の中心が騎兵の中、皇国陸軍はそれに対して速度と攻撃力に優れる軍狼兵や装虎兵が主体となっているが、兵器として見た場合の耐用年 数は極めて低い。仔狼を育て軍狼として調教してから使えて七年で、その癖に毎日手入れをしてやらねば直ぐに“動作不良”を引き起こして性能を低下させる。 しかも、狼一匹にそれを世話する従兵が二人……軍狼兵聯隊は軍狼兵の総数の三倍近い大所帯なのである。これは騎兵でも然して変わらない。

 大国であっても有力な戦力である騎兵が歩兵より少数で、最終的な打撃力足り得ないのは、この大前提を覆せないからに過ぎない。

 だが、高度に機械化された部隊は違った。

 それなりの機械工員ならば性能劣化などなく生産でき、魔導機関は周辺の魔力を取り込むことで稼働する上に軍狼や騎馬の様に大量の糧秣や水を必要としない。そして、それを運用する兵数は三分の一となれば費用対効果(コスト)の面でも語るべきことはない。

 人件費が少なく、性能と生産面で安定しているものがより有力なのは軍事学上の常識である。

 軍狼兵も装虎兵も騎兵も滅びる運命に在るのだ。その屍の山を食い破り、鋼鉄の野獣は陸戦の王者に取って代わるだろう。

「でも、一番の問題はこれよねぇ……」

 Ⅳ号中戦車の影に停められている二つの小型車輛に、フェンリスは腕を組んで首を傾ける。

 小型雪上車(スノーモービル)自動二輪車(オートバイ)である。双方共に小型にする為か内燃機関を搭載しており、稼働には燃料は必要となるものの短時間の訓練で誰にでも運用できるという利点があった。しかも自動二輪車に限っては平地での最高速度で軍狼兵の巡航速度に勝っているのだ。

 つまり、軍狼兵は限定的な部分でさえ、将来的には活躍できなくなる可能性がある。

 騎兵など確実に廃れる兵科となるだろう。軍狼兵は嗅覚などの優れた索敵能力を有している為に偵察部隊としての活用という道が残っているが、それでも狼種 からの反発は根強いものとなることは疑いない。トウカが北部統合軍内で騎兵科を廃止したことは広く知られており、場合によっては、皇国陸軍にもそうした風 潮が浸透するかも知れない。ましてや彼の仕官を望むとなれば、編成と人事面で改革の嵐が吹き荒れることは間違いない。

 しかし、手を(こまね)いていては、この内戦での変化に気付いた各国の機械化に後塵を拝する……否、先手を打つことのできる機会を見逃す訳にはいかない。軍狼兵科の縮小に反対する勢力を抑える一翼を担うことになるであろうフェンリスの苦労は計り知れなかった。

 レオンハルトが打ちつけた拳によって凹んだ戦車の装甲を横目に、フェンリスは隣で荒れる神虎の問題もあるともう一つの問題を思い出す。

 二発、三発と戦車の装甲に拳を叩き付け、その膂力を見せつけるレオンハルト。大破しているとはいえ、鹵獲した原形を留めているⅣ号中戦車を破壊しかねない勢いである。

「ウチの娘が爆薬と一緒に簀巻きにされていたなど末代までの恥だ。しかも、あんな破廉恥な写真を送り付けられるとは……輿入れ前だぞ、畜生め」

「結婚なぞ認めんぞって怒鳴り散らしていたのに、輿入れ云々は気にするのね……」

 呆れ声を上げるフェンリスだが気持ちは分からないでもない。

 武門の親としては娘に爆薬を巻き付けられて、それを餌に追撃が失敗した上に、その娘のいかがわしい写真が送付されてきたとなれば激怒は免れない。報告を 聞いたレオンハルトは無事であったという事実に喜びそうになったが必死に激怒している。ここで甘い姿勢を見せては一尉官として従軍した娘に対する特別扱い と取られかねない。激怒することで周囲に公正であるという姿勢を示しているのだ。

 表面上は憤死しかねない勢いだが、胸中では飛び跳ねんばかりであることは疑いない。

 勿論、諸悪の根源であるサクラギ・トウカに対しては憎悪を滾らせているであろうが。

「その娘を殴るのはどうかと思うけど……仕方ないわね」

 顔に大きな湿布を張ったうら若き虎娘が、不愉快だと言わんばかりの足取りで近づいてくる姿を認め、フェンリスは喉の奥で笑声を留める。一応は勇敢に戦っ た末の結果である以上、正面切って笑いものにすることは不憫に思えるという理由もあるが、相手が悪かったという理由もある。

「レオンディーネちゃん、御機嫌は……麗しくない様ね?」

「……殴打の一発で済むのじゃから安いものです。フローズ=ヴィトニル公爵」

 そうは口にするが、その表情は露骨なまでに不満ですと語っている。

 親子揃って分かりやすいのでフェンリスとしては助かるが、今この時、レオンディーネがこの場に現れた理由が思い当たらないので碌なことではないだろうと予想する。

 無論、今この時、征伐軍総司令部として活用されつつある城郭内でアーダルベルトから“教育的指導”を受けているアリアベルの悲鳴から逃れてきたという可能性も少なくないが、恐らくはそれだけではない。

「サクラギ・トウカ中将と共にヘルミーネが居りました。技術大佐とのことでしたが、この理由を御聞きしたいのじゃが……」

 探る様なレオンディーネの言葉に、フェンリスは口元を引き攣らせる。


 ヘルミーネ・ルオ・フォン・フローズ=ヴィトニル。


 フローズ=ヴィトニル公爵であるフェンリスの娘の一人である。

 それが北部統合軍に与しているという事実は、流石のフェンリスも驚かざるを得ない。

 フェンリスには二人の娘がいるが、ヘルミーネは次女であり次期フローズ=ヴィトニル公爵の立場になく、狼種の放任主義教育の影響もあって放置されてきたといっても良い。幼少の頃から機械に熱中する変わった娘であり交友関係も狭く一族内でも異端児であった。

 正直なところフェンリスもどう接してよいものかと悩んでいたが、機械を触り書籍を漁っていれば満足の様で、何時も通り何処かの図書館で入り浸るか胡散臭い職人に師事しているものとばかり考えていた。

「あの仔は元気にしていたのね? なら好きにさせればいいでしょう。あの仔だってもう自分の鼻で多くを嗅ぎ分けるくらいはできるはずだもの」

 悲劇と絶望を嗅ぎ分けられるようになったのであれば良い。母としては教育できなかったが、世間はヘルミーネに多くを教えたのだ。

 フェンリスは肩を竦めて、唸るレオンディーネを一笑に付す。

 そう、好きにすればいいのだ。戦いたい者の為に戦い、命を捨てる時に捨ててこそ狼種足り得る。或いは、命を懸けて隷属するに値する相手を見つけたのであれば、それはフェンリスにも口を挟むことなどできはしない。

「それよりもサクラギ中将とその周辺について教えて頂戴な」

 北部統合軍の指揮系統と人間関係は複雑怪奇であり、投入した間諜(スパイ)が 文字通り手当たり次第に喰い散らかされる状況で、有益な情報は全くと言っていい程に届かない。対外的な情報の取り入れと発信に長年、神経を尖らせていたマ リアベル隷下のヴェルテンベルク領邦軍憲兵隊と情報部による情報統制と“草刈り”は狂信的なほどに精密であり正確であった。元より北部地域は皇国にあって 特に排他的な地域として知られており、貿易区画以外で特徴的な人物を探すことは容易いという理由も少なくない。

 驚いたレオンディーネだが、やがて少しずつ言葉を選びながら語り始める。

「まず始めに警戒するべきは油断ならぬ女狐がおって、これがサクラギ中将……トウカの周囲を警戒して――」

 誤解は往々にして広がりやすいものである。








「へくちッ!」

 ミユキはくしゃみをする。

 どうも最近はくしゃみの頻度が多い気がするが有名税だろう、と鼻水をずるずるとさせるミユキに、リシアがハンカチを差し出す。それを受け取ったミユキは問答無用で鼻をかむと、リシアに笑顔で突き返し、リシアは頬を引き攣らせながらそれを受け取る。

「まさかリシアだけ先に帰ってくるなんて思わなかったよぅ」

「私も将校用の客車から降車した瞬間に抱き付かれるとは思わなかったわ」

 リシアの返答にミユキは机をがりがりと引っ掻く。

 降車時は護衛の兵士は別として搭乗している最高位の者からであるという話を聞いたミユキは、ベルセリカが軍狼兵や歩兵を率いて帰路に就いていると聞きい て考えた。鉄道で帰還する将校の最高位はトウカであると。そう思っていたので、客車の扉が開いた瞬間、中の人物に抱き付いたのだ。無論、マリアベルに唆さ れた部分も大きい。

 参謀本部や総司令部の他の将校でなかっただけ軽傷なのだが、ミユキとしては損した気分である。乙女心は消耗品なのだ。

「主様は殿を努めてるって、大丈夫だよね?」

「アレがそう簡単に死ぬなら私が欲しいと思う訳ないでしょ、莫迦ね」

 リシアはつまみの軟体生物の足をもしゃもしゃとしながら呆れた様な声を上げる。

 二人はヴェルテンベルク伯爵邸の小さな軍港を望む客間で寛いでいた。用意された酒やつまみを手に談笑する二人の状況は正に女子会という風景であるが、机に並べられている酒瓶はどれも高価なもので若い女性に飲む機会がそう訪れるものではない。

「済まぬの、遅れた……まぁ、楽しんでおるようであるがの」

 開けられた扉から現れたマリアベル。

 ほろ酔い気分のリシアが立ち上がり直立不動で敬礼するが、ミユキは軍人ではないので立ち上がるだけに留める。酒精で顔を朱に染めるリシアの表情に苦笑するマリアベルは、苦笑しつつも壁際の応接椅子(ソファー)に優雅に腰を下ろす。ぞんざいにマリアベルが片手を払うと、リシアも敬礼を解いて椅子へと座り直す。答礼をしないところがマリアベルらしく、その気負わない姿勢を好ましく思いながら、ミユキもリシアに続いて座る。

 しかし、ミユキには気になることがあった。

 隣のリシアもほろ酔い気分が失せたのか、一心に疑問の対象へと視線を向けている。 

「それでそれでっ! その妖精さんは何処で拾ったんですか!?」

 ミユキは興味津々であった。

 そう、妖精さんである。

 マリアベルの肩に乗る妖精。

 背後が透けて見える程に透明色な羽根が六枚ということは最高位の妖精種ということになるが、元来、妖精種というのは極めて数が少ない上に変わり者が多い ことで知られている。しかも、天狐族以上に人前に姿を現すことが少なく、森林で果実を頬張っている姿が愛らしいと写真集が出ている為に人身売買の対象にな ることすらある。尤も高位種であれば一個中隊程度であれば簡単に“殲滅”できる為、行方不明になる密猟者も少なくないのだが。

 二つに束ねられた緑の長髪に神州国の着物の様な上衣に、皇国の民族衣装でもある無数に“ひだ”の(あつら)えられた足首まで届く襞筒衣(プリーツスカート)の出で立ちは幻想的な雰囲気を台無しにしているが、それに留まらず気難しげな表情が幻想種にも分類されるその愛らしい容姿を徹底的なまでに破壊していた。

 ――う~ん、この態度と表情、どこかで見たような無いような。

 既視感というには余りにも強烈な印象。隣に座るリシアも頻りに首を傾げている。

 気難しげな表情が印象的な人物というのは意外と少ない。

「なんか上から目線な感じがセルアノさんみたいですっ」

「そうね。そう言えば政務官殿に似ているわね。こう、厚かましそうなところが」

 自身の横紙破りな遣り様をそっちのけにリシアが同意する。

 マリアベルの苦笑は一層深くなる。

 妖精の不機嫌顔も濃くなる。癪に障ったらしい。

 鼻を鳴らす様はとても妖精とは思えない。世のお子様たちの幻想を打ち砕く光景である。

 セルアノと知り合いなのだろうかと思ったミユキだが、妖精から放たれた言葉は予想だにしないものであった。

「当たり前よ。当人なのだから。私、言われたことは忘れないから覚悟しておいて頂戴ね。特にそこの紫芋」

 けっ、と毒付く妖精にミユキは右の狐耳を折り曲げる。思案する際の癖であった。

 実は魔導国家でもある皇国には人体の変異や精神的解脱という魔術が存在する。無論、それは神代魔術という旧文明よりさらに以前のもので、その運用法は現代には継承されていない上に桁違いの魔力を必要とした。不可能と言える。

 つまり……

「実は何時ものセルアノさんが実は絡繰り(ロボット)で、妖精のセルアノさんが中で操縦していたんですね!」

「ミユキは少し黙ってなさいよ。こんなちんちくりんがあの美女の成れの果てなわけないでしょう」

 ミユキに向かってマリアベルの肩から飛び立ち部屋を舞っていた妖精を、リシアは蠅を叩き落とすかのように右手で一蹴する。ぶへっ、という妖精にあるまじ き声を上げてマリアベルの胸元にすっぽりと収まった妖精だが、胸の柔らかさに助けられたのか胸元から顔を出して文句を垂れる。

「焼酎にしてあげようかしら、紫芋!」

「羽根を毟られて焼鳥なる前に森へ帰りなさいよ、蠅小人!」

 飛び出して顔を突き付けた二人がぎゃあぎゃあと口論する二人を余所に、ミユキはマリアベルへと視線を向ける。

 マリアベルは二人に苦笑を向けたままに頷く。妙に優しげな表情である。

 つまりは妖精がセルアノというのは事実なのだろう。

 元より領邦軍指揮官であるリシアは、予算運用に事ある毎に口を挟む政務官のセルアノを嫌っているので当人と知って余計に機嫌が悪い。既に戦時下による恩 恵とはいえ、若くして大佐にまで上り詰めたリシアは指揮系統の変更もあってセルアノに対して下手に出る必要はない。無論、これ程までに高位種や目上の者を 敬わない例は珍しいが。

「まぁ、色々と準備があっての……それの一環と言っておこうかの」

 詳しく語る気はないのか、マリアベルは机上に置かれたウィシュケの硝子杯に手を伸ばす。

 ミユキはウィシュケの酒瓶を手に取ると注ぎ口をマリアベルに向ける。意図を察したマリアベルが硝子杯を差し出す。

 心なしかマリアベルの顔色が悪い気がしたが、懸念でもあるのかも、とミユキはウィシュケを注ぐ。

「……トウカはあと二日程で帰ってくると報告があっての。どうもあの莫迦者め、橋梁を落として、罠を無数に仕掛けながら戻ってきておるらしいてな」

 戦後処理を考えぬか、というマリアベルのぼやきに、ミユキは苦笑する。

 トウカの安否を気にしていたリシアも、逆さまにした一際大きい硝子碗を机上に押し付けて中に妖精……セルアノを拘束した姿で耳を澄ませていた。捕らわれ のセルアノの姿は中々に笑いを誘うものであるが、巷には妖精の呪いという伝承もあるので、ミユキは努めて視線を合わせない様にする。

「しかもティーゲル公爵の小娘に爆薬筒(ダイナマイト)を括りつけて索敵軍狼兵を躱したらしくての。まぁ、やりたい放題と言えるのぉ」

 ウィシュケを口に含み嚥下したマリアベルは、まっこと愉快よのぅと笑う。

 しかし、疲労が滲む気配が窺えるのでミユキは尻尾を揺らす。

 軍務卿という立場にあるマリアベルの軍務は、実際のところミユキにも内容は判然としないものであった。どちらかといえば軍政の頂点として北部統合軍を政 治の面から支える役職としての側面が強いが、マリアベルはそれに加えて軍事と経済で北部を牽引し続けていたヴェルテンベルク領の統治も並行して行わなけれ ばならない。

 事実上、マリアベルは軍務と政務。そして経済にまで配慮せねばならない立場にあり、それが北部統合軍の成立によって軍事面の負担が増大した。総司令部や 参謀本部の設立によって戦略面での負担は消えたが、各貴族の領邦軍の寄せ集めである部分に対する対応は、寧ろ日を追う毎に悪化している。

 エルゼリア侯爵領が失陥した為である。

 見切りを付けた貴族が出た。

 或いは、征伐軍、否、中央貴族の切り崩しの前に屈したのだろうとリシアは語るが、マリアベルは戦野で裏切られるよりは良かろうと肩を竦める。

 そう。戦況は悪化の一途を辿っている。

 一度、フェルゼンに強行偵察として進出してきたと思しき中央貴族の航空部隊約三〇〇騎の来襲を始めとした航空部隊の散発的な空襲は、然したる被害を発生させた訳ではないが精神的な打撃を与えていた。

 無論、マリアベルは健在な戦闘騎部隊や対空火器、艦艇を活用して悉くを効率的に排除と撃退を行ったが、軍都としても名を馳せるフェルゼンが空襲圏内に収まったまま打開できないという事実が北部統合軍からの離反部隊を多数出す結果となった。

 マリアベルはそれを止めなかった。

 寧ろ装備を充足させて送り出してやったのだ。

 当初、ミユキは限りのある自らの物資や弾火薬を分け与え、袂を分かち主君たる自らの貴族達の下へと帰還する各領邦軍に対してのマリアベルの対応は感動すらするものであった。各領邦軍の領邦軍司令官に対して罵ることもない姿に、貴族としての在るべき姿を見た気すらしのだ。

 ――諸兄らは己が依って立つところを護るが良い、かぁ。私には言えないなぁ……

 しかし、マリアベルは内心で嘲笑っていたのだろう。

 その後、各自の貴族領に戻った各領邦軍は次々と武装蜂起する。否、暴発させられたのだ。マリアベルの手によって。

 考えてみれば簡単な話で、各自の貴族領に戻ろうとした各領邦軍には、ヴェルテンベルク領邦軍情報部の工作員が紛れ込んでおり破壊工作を行ったのだ。

 ある時は、征伐軍の軍装を纏い領邦軍へ奇襲を仕掛ける。
 ある時は、付近の征伐軍部隊へ領邦軍の軍装を纏い攻撃する。
 ある時は、領邦軍と征伐軍の部隊が衝突するように仕向けた。

 最終的には領邦軍と征伐軍が意図しない状況で衝突する以上、被害は甚大なものとなる。何より、どちらかが先に発砲したかなど本格的な戦闘に陥れば闇の彼方で、最終的に残るのは屍と生存者と相手への遺恨だけであった。

 一度、二度、と起きれば征伐軍も警戒し、猜疑心を抱く。そしれ領邦軍もそれを感じて関係は悪化し、ただでさえ交戦していたこともあり、悪化していた関係は更に悪化するという悪循環。一度、切っ掛けさえあれば各地で交戦状態に陥ることは間違いなかった。

 そして彼らは帰ってきた。征伐軍や中央貴族への憤怒と遺恨と共に。

 マリアベルが離脱する領邦軍に物資や弾火薬を与えたのは、征伐軍や中央領邦軍との意図しない衝突時に可能な限り敵に被害を与え、事態を大規模とする為に過ぎなかったのだ。

 汚いとは思わない。戦争なのだ。狐種の狩りでも手負いの獲物を敢えて放ち、群れを特定して油断もさせることがある。似た様なものであった。

 憤怒と悲哀の表情で撤退してきた各領邦軍を迎え入れたマリアベルの権勢は、嘗てない程に増しており、領民も協力しての総力戦態勢へと移行しつつある。

「最近はお酒が安くなって楽しいです。なんで税を下げたんですか?」

「不満や不安を逸らし、紛らわせるには嗜好品の減税が一番であろうて。まぁ、全面的な増税で落ち込みつつある輸出量を持ち直したいというのが本音であるがの」

 ヴェルテンベルク領の主要な輸出品目は各種鉄鋼資源に魔導資源、そしてノイエ・ウィシュケとよばれる郷土酒であるが、その総てが内戦で劣勢になるにつれ て輸出量を減らしていた。シュットガルト運河の航路確保の為の出兵などで持ち直した局面もあったが、総合的に見た場合はやはり低下していた。本来であれば 直ぐにでも減税措置などを以て応じるものだが、それは最終手段であり、このフェルゼンに敵が迫る状況までその手段を取らず、それ以外の手段で対応していた 政務官であるセルアノの手段は非凡なものと言える。

 マリアベルの右手に摘ままれる形で救出されたセルアノがよれた羽根をそのままに自信に満ちた顔で腕を組む。誇るべきことかも知れないが、妖精の姿で胸を張られると微笑ましく感じるだけであった。

「そう言えば、マリア様……化粧が濃い気がします」ミユキが首を傾げる。

 隣に座らされたミユキは近くからマリアベルの顔を窺う事ができるので気付くことができるが、出会った頃のマリアベルは僅かな化粧しかしていなかったことに対し、現在はかなり濃い化粧をしている。

 マリアベルは、硝子碗を揺らして溜息を一つ。

「…………狐は誤魔化せぬか。顔色を誤魔化す為で……すまぬ」

 言葉を止めてマリアベルは大きく咳き込む。

 心配したセルアノがよろよろと飛んで机上の水が入った硝子杯を運ぶ。マリアベルはそれを受け取ると一息に飲み干そうとするが、再び咳をして手から硝子碗を取り落す。

 床へと落ちた硝子碗が水を撒き散らし、破砕音を響かせて砕け散る。

 そして、マリアベルの口から少なくない量の血が床に零れ落ちた。

「衛生へ――」

「待てっ! 待つがよいっ! 大事ない!」

 立ち上がったリシアを吐血混じりの声音で止めたマリアベルは荒い息遣いで皆を見据える。驚くミユキとリシアに対して、セルアノは遣る瀬無い表情を浮かべており事前に知らされていたことが窺える。

 マリアベルの膝へと降り立ったセルアノは血に汚れることも厭わずに身を寄せる。心配しているのだろう。二人の付き合いは長い。

「……わ、妾は大事ない……」

 繰り返すマリアベルに、ミユキとリシアは困惑した表情で顔を見合わせる。

 意識が朦朧としているのかその表情は胡乱だが、そのままに言葉を呟く。

「もう持たぬか……使えぬ、身体であ…るのぅ」

 口元には自虐的な笑み。この状況を楽しんでいるのか、自身の力のなさを嗤っているのか。

 しかし、それでも心配すべき事があるのか一瞬、表情を曇らせる。

「言うな……言っては……ならぬ。……特にトウカに……は……トウカには……」

 呻くように、無意識にそんな言葉だけを繰り返す廃嫡の龍姫。

 マリアベルは戦野の炎である。

 深淵から憤怒の声を迸らせ、吹き荒れる戦意の業火は天壌をも焦がさんと轟々と燃え上がる。神龍でありながら久遠の時を生きられない現実に怒り、この世界に自身を刻み付けんとする感情の昂ぶりに心を委ね、唯一の命を賭け(チップ)に、人生という舞台を踊り続けた生き様は、他国に比べて女性の権利が大きい皇国に在っても尊敬を集める。

 しかし、それでも尚、久遠の時を踊り続けることは叶わない。

 既にマリアベルは踊り続けることができなくなりつつあるのではないのか?

 ミユキは一つの時代が終わろうとしているのだと感じていた。

 

 

 

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