一〇軒目 ここら屋 先斗町店
TEL・予約 075-241-3933
住所 京都府京都市中京区鍋屋町209-12
営業時間 18:00~24:00夜10時以降入店可で日曜日も営業していた。
祇園四条駅から200mくらい?
この店、実は凄く見つけ難い。昔は、通りに野菜をこれでもかと陳列してアピールしていたのだが、最近は人気が出てきてすぐに満席になるからかひっそりと した感じで見つけにくい。本来ならば大通りからの外観を撮っておくべきだったが、忘れたので大通りからの出入り口を紹介。
店の門構え。
先斗町の店にしては少々控えめであるが、実はこの店、京都内に3、4件あって大変繁盛している。他の店のメニューは少し違うという噂もあるので、是非、赴いてみたいものである。ちなみに小道に入った先なので注意。
店内の様子。
全く普通の居酒屋の様な雰囲気にも思えるが、要所には京都らしい赴きある調度品が置かれており、出入り口から座席に向かう際に廊下から一望できる厨房が これまた楽しい。厨房を積極的に見せる造りというのは珍しいのではないだろうか? 寧ろこの為に出入り口を小道の奥まった場所にしたのではないかとすら思 える。
今回の主役である。ちなみにこれが扶桑狐の本来の姿なのだ!
……実際は、蔵王キツネ村で買ってきた小さい置物である。五〇〇円くらいだったか?
刺身の盛り合わせ。
旬に合わせた魚をお出ししますと言いながらも、マグロやサーモンを主体にした何時でも冷凍輸入品な品を前面に押し立ててくる店が多い中、この店は季節に 合わせた魚を出してくれます。無論、貝もあり、炙りにしてあるものもあるなど多様性に富み、変わった魚介類もたまに出てきます。ちなみにお狐様はウマヅラ ハギが大好きです。辛口の日本酒に合う合う……。
生麩田楽。
お狐様オススメの一品。
最近は生麩を利用した料理を出す店も増えていますが、田楽は簡単なようで難しくあり、店の質が露骨に出ます。焼き具合次第で、お餅に近くなることもあれ ば、蒲鉾に近くもなり、その上、付けられている味噌の種類や量でも味が大きく変わる為、同じ店は一つもない。ちなみにこの店は少なめであり、生麩自体の味
を前面に押し出しており、真に生麩をしていると言える。味噌で誤魔化す為に酒の風味が効いた(恐らく酒粕を混ぜている)ものもあるが、元々、自己主張の少 ない生麩を生かしていないので好きではない。
馬刺し。
お狐様は馬刺しに目がないのです。ちなみにこうして霜降り赤身にたてがみ(コーネ)を別で添える形は意外と少ないです。多くの場合では完全な赤身に脂を乗せるという意味で、たてがみを添えるというパターンがあり、これは霜降りの馬肉を調達しにくいからという理由などがあると睨んでいます(き
りっ)。霜降りの脂は解凍すると滲み出すのです。半分冷凍のまま出している店もあるが以てのほか! たるんどる! 対してこれは完全な霜降りの馬刺しで す。これでもかと脂分を大フィーバーさせていますが、馬の脂は総じて日本酒や焼酎に合う。酒で押し流せないくらいに濃厚な脂であるが、胃にもたれないとい うのは嬉しい話です。
炙り鴨ささみの”かもわさ”。
鴨のささみを炙り、ワサビの葉で和えたもの? 醤油にしては粘度の高いソースが食欲をそそる一品で、寧ろこれをおかずに白米をいただきたい。ビールにも 合うのだが、やはり白米である。自分としてはもう少し焦げるくらいに炙って苦みを出してくれた方が嬉しいが、きっとそれは酒飲みの主張なのだろう。
鯛の白子ポン酢。
酒は人類の友だというが、白子は酒の友であろう(お狐様の密かな名言)。そんな言葉が思い付くほどに白子は酒と合う。特に辛口淡麗の日本酒との相性は暴 力的であり、これは特に濃厚さがあった為に十分に楽しめた。少し大根おろしが乗っているが、この点も評価できる。乗せていない店もあるが、自分としては大
根の仄かな苦みがいいアクセントになるとおもうのだが。ちなみに時期なら柚子の皮を薫り付けに乗せているところもあるがアレには脱帽する思いである。
日本酒お試し。
京都の地酒三種類を試し飲みできるというのは中々に素晴らしい。全体的に日本酒としての風味が薄く、仄かに米の風味を引き摺りつつ、あっさりとした雰囲
気を感じさせるのは、京料理に合わせようという意図からだろう。特に蔵出し原種などは、ある意味完全な原酒と言えた。対する守破離は、伏見だかの酒造が原酒をそのまま火入れ工程まで持っていくと聞いていたのでどんなものかと思えば、風味が死滅している気がしてならない。日本酒だって料理の邪魔をするほど自己主張してくれてもいいんじゃよ?
蛸のやわらか煮。
ここまで柔らかくするのに一体、どれだけ煮込んだのか。ガス代掛かるだろうなぁ、とすら思える一品。カラシが添えられているので、おでんのような扱いか と思えば、濃いめの味付けなので十分に単品で楽しめる。……さきほどから酒のつまみばかり紹介している気がしないでもない。
赤地鶏せせりと九条葱の黒七味焼き。
塩味で赤地鶏せせりと九条葱を炒めた上で、黒七味で味付けをするという贅沢な一品。実はお狐様は黒七味が大好きである。七味全般が大好きで、よく変な七 味を買っては自滅している。最近はかぼす七味なるものを買ったが……。不毛な七味漫談は置いておくとして、黒七味は、山椒がふんだんに入っている為、鼻に
抜ける薫りを手伝う為、少し焦げた葱の風味を深く伝えてくれる。そして柔らかいせせりと葱のしゃきしゃきとした歯ごたえが頼もしい。これも御飯とビールに間違いなく合う。
生湯葉のお刺身。
女性は大好きですな、生湯葉。……お狐様は・だ・い・き・ら・い・ですけどね! 酒には合わんし御飯にも合わない。京都まで来て健康に気を使うなら、地元で豆乳でも飲んでいろとすら思う。今生ぶんの湯葉は食べた。
牛すじと新じゃが芋のたいたん。
たいたんとは京都の言葉で煮物を指す言葉らしい。土星の衛星にそんな名前のやつがあっな、と思った俺は悪くない。ちなみに味としては完全に京風の肉じゃ がである。いや、どちらかと言えば、おでんの牛すじとじゃがいもに通じるものがある。こうして一般的な料理を上品に仕立てあげてしまう部分があるからこ そ、京料理というのは格調高く見られるのだろうと思える一品であった。
奥丹波鶏の塩焼。
日本の地鶏は全体的に硬めの肉質だが、これも例外ではない。しかし、レモン汁を掛けて、塩で食べると、噛めば噛むほどに肉汁が溢れ出てくるので、塩味の 焼鳥に近い部分がある。これも京都補正なのか真に上品である。串焼きなんて認めないぞという京都人の気負いが見て取れる……気がしないでもない。しかし、
奥丹波の鶏は地鶏らしいが、他の地鶏に比べても柔らかい。不思議なものである。こうした発見は楽しい。
賀茂茄子の田楽
賀茂茄子を横に真っ二つにして揚げて、その上で田楽味噌を乗せた皿の上にぶちゅっとのせる。まるで更に接着剤を付けて物を接着しているような光景で笑いを誘うが味としては悪くなく、寧ろ味噌が皿についているので切り分けた賀茂茄子に味噌をつけやすい。なんという合理性。茄子に味噌が乗っていると切り分 ける時に変に偏るのでこれはいい。特許を取れると思う。
はもの天ぷら。
はものおとし。
いや、もうはもの季節ですよ。
淡白な味ながら、刺身でも天ぷらでも炙りでも行ける万能食材であり、日本が誇る食材でもあります。近年は中国産も増えているらしく、しかも嚙み付いてく るから釣り人も好んで相手にしようとしないという扱い辛い魚類ではありますが、大変美味でもあります。関西が消費の九割を占めるそうなので、食した事も無
い人も多いようですが、上質なものは淡白ながらも味わい深いです。ちなみにどの食べ方であってもお勧めするのは断然、塩です。梅などを調味料として添える 店もありますが、梅は個性が強すぎるのでただでさえ薄味のはもの味が無くなってしまうので。
わかさぎの天ぷら
小魚の天ぷらというのは、日本酒に合います。特に苦みのある肝があると尚、好ましい。しかし、店によって天ぷらは、揚げた際の油が中に浸透して、少し衣が香ばしさを喪うという事もありますので、こうした揚げ方はやはり料理人しかできないのかも知れません。
つきだしと漬物の盛り合わせ。
正直なところこの店で一番、お勧めの料理はこの二つである。これほど美味しい漬物は食べた事がない。全体的濡薄味だが、素材の味を前面に押し出した上 で、酒にも合うし、白米でもいけるだろう。錦市場の漬物にも驚くが、京都の漬物は全体的に質が高い。酢などの酸味を最低限に押さえつつも、こうした食材とのバランスを取った味付けをしている。お持ち帰りできるというなら全力でお持ち帰りしたかった。
キャベツと京都ポークの角煮
かくかくしていないが角煮である。恐らく、あまりにも柔らかすぎて形状を維持できなかったのだろう。レンゲが付いている事を見ても分る通り、箸で掬うこ とが難しい程に柔らかく、キャベツも十分すぎる程に味が染みている。口の中に入れると豚肉の方は完全に形を失い、その味を出させるが、些か脂が濃すぎるの で酒が進む。流し込む様なビールが最適である。
おばんざい盛り合わせ。
酒には合わなかった……つきだしの延長線上として頼めば、元から完成しているものなのか早く出てくる。時間が掛かると見れば、これを注文するのも一つの手だろう。……おからは勘弁してつかぁさい。
メニュー
料理の種類は妥当な数で、御値段も先斗町にしてはリーズナブルと言える。しかし、全体的に少量で出てくるので、飲まずに食べるばかりの人を連れていくと 大惨事になる。二人で行って一八〇〇〇円というのは、中々に高い。無論、これは酒飲み二人で行った結果なので、まぁ、参考にはならないだろう。金額の半分
が酒ですし。いや、そもそも紹介している料理の多くがつまみですので、非常に偏りがあるが、行ってみればそうでもありません。
まとめ
非常に人気のある店であり、店員の対応も早い上に丁寧である。人気伝であるが故に、客を高回転率で回すことに馴れているのだろう。好感が持てる。全体的 に薄味の印象があるが、それでも物足りないという気はせず、不思議な感覚に捕らわれる。京料理というのはこうしたものが多いが、お手頃価格で京料理を楽し
めるこの店は初めて京料理を試すには最適です。無論、懐石などはありませんが、あれは京料理とはまた別物です。
全体的に酒類も辛口や淡麗が多く、料理に適したもののみを置いている印象を受けるが、置いている種類自体もかなり頻繁に変わる様で、行く度に料理のライ ンナップも変化する。特に季節に合わせた魚介類や野菜を使った料理を出す点は評価したい。これほどまでメニューを季節後の毎に変える店も少ないだろう。