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第五話    青空教室

 



 大日本皇国連邦 大本営 某所



 世界三大国の一つである大日本皇国連邦の政治と軍事を司る大本営の一室に、陸軍将校の服を着た男達が黒檀の机を囲んで座っている。


 皆、一様に暗い表情をしているので、部屋の暗さと相まって男達の顔を恐ろしく見せていた。


「最近の軍に対する政府の対応は目に余るものがある!」


 初老に差し掛かった陸軍将校がバンッ と机を叩き立ち上がる。


 その声に同調するように「全くだ!」「国防を担うのは軍だぞ!」「国賊め!」と次々と物騒な声が上がる。皆、目が血走り熱狂的なまでの動作で立ち上がる。


「我々は誇りを取り戻さねばならん!」


「しかし、具体的にどうすれば……」


 一人の将校が中央で熱弁を振るう将校に問いかける。


「うむ……。それは簡単な事ではないだろう。しかし、我々はやらねばならん! まず最初に国家の予算を食い潰している傭兵どもの巣窟を叩く!」


「まさか……」


「そのまさかだよ、諸君!」


 再び机を叩き、声を張り上げる。


「近江学園都市を叩き潰す!」





 近江学園都市 教室


「刀樹くん! 今日は私とデートしなさいよ!」


 いきなり何の脈絡もなく、深雪はビシッと指を指して命令する。


 ちなみに今は学級討議中。しかも、担任である蓮大寺先生が自ら教鞭を取っている。教室全体に聞こえるような大声で叫んだ声は、蓮大寺先生はおろか防弾、防音壁を貫いて隣の教室、までに聞こえたほどだ。


「ほぅ……、どうやらアホの生徒会長は死にたいらしいのぅ」


 蓮大寺先生は笑顔で黒板から目を離す。


 振り返ろうとしたその瞬間!無数の色と数のチョークが深雪目掛けて飛来する。


 バンッ! バンッ! バンッ! バンッ! バンッ!


 チョークが深雪の頭に直撃した音……ではない。銃声だ。


 刀樹は、深雪に飛び掛ると押し倒すようにして覆い被さる。


 深雪を押し倒した刀樹は、懐からベレッタM92拳銃を引き抜くと安全装置を外す。


「オイオイ、嘘だろ」


 教室の窓には無数の穴が開いている。弾痕だ。それも大口径のアンチ・マテリアル・ライフル(対物狙撃銃)だ。流石の防弾ガラスも、装甲車のエンジン部に穴を開けたりするような大口径弾が相手では紙同然のようだ。


「あの、刀樹くん。私を押し倒してナニをする気なのかなかな? いや、私は別にいいんだけどっ! 皆の前でするのは……ああ! でも刀樹くんがどうしてもって言うなら」


 瞳をウルウルさせて刀樹を見上げる深雪。


「……はっ?」


 窓の外に視線を向けていた刀樹は、その声に思わず視線を戻す。


 深雪は、刀樹の首を両手で抱きかかえ無理やり近づける。


「わ、私は、刀樹くんが望むなら……何だって……」


 さらに顔を近づける深雪。


 ガスッ!


「いたっ! も、もう何で叩くのっ! レディの一世一代の勇気を」


 ガスッ!


「じょ、冗談だよ、冗談! で、でも雰囲気的にイケると思ったんだもん!」


「どんな雰囲気だよ! 狙撃されてンだぞ! しかも、大口径の対物狙撃銃で。下手しなくても頭に当たったら、スイカ割りみたいに木っ端微塵になンぞ!」


「大丈夫よ、クローゼは狙撃の名手なの」


 ふふん、と押し倒されたままの状態で腕を組み、得意げな顔をする深雪。


 犯人はあのナチ女か!


「私の前で私語をした奴は死後の世界に行ってもらうかのぅ」


 蓮大寺先生は、つまらない駄洒落を披露しながら、教卓の中からバレット・モデル82A1セミ・オートマチック・ライフルを取り出し、マガジンをレシーバーの下面に装着する。


「あのナチ女を教育してくるぞえ。お前らも教育してやるから待っとるんじゃぞ!」


 ボルトハンドルを後退させて初弾を装填する女教師。


「あの教卓は、四次元に繋がってンのか」


 明らかに物理法則を無視して出てきた長大な狙撃銃に、思わず魂が抜けそうになる。未来からやってきた猫型ロボットのポケットですか! も~しかたないな~ とか言って狙撃銃出しちゃうんですか?!


「このクラスの教育方針はどうなってンだ」


 あの先生は生徒を教育するのに狙撃銃がいるのか? なんて事を言う生徒はいない。これが近江学園都市なのだ。死んだら自己責任だと言いたいのだろう。どうせここで死ぬなら傭兵としてはやっていけないと、学園の教士陣は考えているのだろう。


「で、この射撃はクローゼなのかよ? あの女、ついに俺を殺しにきたな」


「チョークが飛んできたから迎撃しただけよ、きっと。意味もないのに教室に銃弾撃ち込まないよ」


「意味があっても教室に銃弾撃ち込むんじゃねェよ」


 いや、あの陰険ナチ女なら、ついでに俺の頭もうちかねないぞ。超高層ビルから落ちたトマトみたいになるのはぜひとも勘弁願いたい。


「先生が率先して授業を戦場にするってどうよ?」


 と、刀樹の疑問を無視するかのように教室に轟音が響く。


 蓮大寺先生が発砲したのだ。


 その大口径のバーレット狙撃銃は、銃声というより爆発音に近い銃声で生徒達の耳を打つ。


 反対側の校舎の屋上に設置されていた給水タンクに大穴が開いて水が雪崩を打ったように流れ出す。教室の窓は、蓮大寺先生が発砲する前に財務委員が素早く 開けたのでこれ以上穴は増えなかった。さすが財務委員……。止められないと悟って被害を最小限に留めるように動いているのだろう。現実的だ。


「うはははっ、死ねっ! 死ぬのじゃ、ナチ女! 私に勝てると思うたかっ!」


 連続で引き金を引く我等が担任。


 轟音が轟く度に反対側の校舎の構造物が抉れていく。


 負けじと、クローゼからも応射が飛んでくる。


 教室にあるあらゆる者に穴が開く。


 この日、刀樹たちの教室は壊滅した。











「と! 言うわけで、今日からここが我らの教室じゃ。ここならすこし散らかしたぐらいじゃ怒られんぞ。私に感謝するんじゃな」


 深雪とは対照的なつるーんぺたーんな胸を張るわれ等が担任。


 前には見渡す限りの青い空。ついでに言うと右も左も上も後ろもだ。清々しいくらいに周囲は青一色だ。なんか泣けてきたよ……。


 正直に言うと青空教室・in屋上


「ちょっと待ってよ! ここ、ただの屋上だよっ! 他に開いている教室くらいあるはすだよ! 大体、雨が降ったらどうするのっ? 風邪引くよ!」
 深雪が珍しくマトモな事を言う。


 言ったれ言ったれ! こんな所で教育を施す学園機関があってたまるか!


 戦後の学校でもここまで酷くはないぞ。


「ええい、うるさいぞよ! 教士に反抗するとは何事かぞよ!」


「もういいもん。先生は今日でクビだもん! クビ!」


 深雪は右手で首を切るジェスチャーをする。


 深雪が権力という伝家の宝刀を持ち出した。深雪にとっては、教士の一人や二人左遷するくらい造作もない事なのだ。実際、歯向かった何人かの教士はウラル分校やインドネシア分校に飛ばされている。


 いや、それ以前に深雪がデートが何とかなんて言い出したのがそもそもの原因なのだが、当の本人はすっかり忘れているようだ。


「さぁさぁ、南国の学校か極寒の学校どっちがいい、かなかな? 内戦中の国の学校に送ってあげてもいいよ。そこなら銃も撃ち放題だよ」


 突っ込み所は色々あるが、リアルにこの教士がどこかに行ってくれるならと、刀樹や生徒達は何も言わない。


「うう~っ! 刀樹~っ! わらわを、あの胸しかとりえの無い女がいじめるぞよ~っ!」


 がしっ! と蓮大寺先生は刀樹に抱きつく。刀樹は離れようと抵抗するが異常な握力に負けて中々離れられない。


「むぅ~~っ! 刀樹くん! 今すぐその貧乳教士から離れて!」


「いや、離れ……られねぇ……」


 蓮大寺先生の顎を手で押し戻しつつ体を離そうとするが、異常な力で更に引き寄せられる。食虫植物みたいな先生ですよコレ。


「この学園から追い出されるなら刀樹も連れて行くぞよっ! 不倫ぞえ~駆け落ちぞえ~」


「アンタそれでも教士かよ!」


「教士である前に一人の女ぞよ!」


 方向性の間違っている反論をする蓮大寺先生。いやいや、ぞよ なんて語尾に付ける女なんて普通いないから……。


「頼むから二人とも落ち着いてくれ、次は屋上を壊滅する気か? 次は銃弾飛び交う演習場が臨時教室になんぞ」


 その言葉に二人は争うのをやめる。しかし、目線の間には火花が散っている。


 生徒の中には胸の前で十字を切っているものや、防弾シールドを持って警戒しているものなど、なにかしらの準備をしている。頭のいい連中は校内に入るドアの前まで移動している。何かあれば即、逃げる気だろう。


 しかし、今日はそれが裏目に出た。


 バンッ!


 そのドアが内側から勢いよく開く。ドアの周囲に群がっていた生徒達は一人残らず薙ぎ倒される。凄まじい威力だ。


「パパは、駆け落ちなんて許さんぞ!」


 学園長が死屍累々なドアから飛び出してくる。とても中年には見えない動きだ。


 お前の息子になった覚えはねぇ! いやそれ以前に、話がややこしくなるから失せろ。刀樹のそんな思いは露知らず学園長はズカズカと教室(屋上)に入ってくる。


「おう、いつからパパになったんだ、オッサン」


 蓮大寺先生を床に押し付けて黙らし、学園長にガンを飛ばす刀樹。


「何をグレているのだ。お前は渋谷のチンピラか? 私はあんなバカ共の人権など認めんぞ!」


 むきーっ と、嫉妬に燃える少女のような奇声をあげて刀樹の肩を揺さぶる学園長。さらりと教育者とは思えない発言をしている。


 だんだんと教室(屋上)がカオスになってきた。


「ええい! 黙れ、バカども! ここからヒモなしバンジーさせるぞ!」


 六階建ての校舎の屋上からアイキャンフライするのは流石に嫌なのか、皆静かになる。聞こえてくるのは学園長の登場によってダメージを受けた生徒の呻き声だけだ。


「息子よ、そんなに怒らなくても……」


「そうだよ刀樹くん、そんな年増女がいいのかな!」


「なっ! 誰が年増じゃと! お前だってあと十年すれば目元に小じわが出てきて大惨事じゃろうに」


 元凶である三人は文句を垂れ流しているが、ひとまず刀樹の話を聞くようになったのでハリセンの出番は無くなった。


「兎に角だ……。お前らはちょっとそこから飛び降りろ」


 と、ハリセンで屋上の端を指す。


「いやいや、息子よ! それ死ぬから!」


「まぁ、それは冗談としてだな……」


 前置きをして前に設置された黒板の前に立つ。他の馬鹿どもは司会進行などできないだろうと仕方なく刀樹は自分が進行役を勤める事にした。すると今まで全 く進んでいなかった事柄が次々と決まっていく。深雪と学園長は、それを頼もしそうな目で眺めている。対照的に蓮大寺先生は複雑そうな顔をしている。


「え~という事で我がクラスの出し物はメイド喫茶ということで……」


 男子生徒の一致団結により出し物が圧倒的多数で決まる。提案したのが学園長なのが気になるが生徒諸君は気にしていないようなので、そのまま司会を続ける。


「あ~それと後ひとつ。最近、この学園内で不審者が目撃されているので見つけたら……」


「とっ捕まえて生徒会まで引きずってきてね。いい? 別に生きている必要はないよ、やむ終えない場合は射殺OK! 生死問わずだよ!」


「いや学園側としては生きたまま捕まえたいんだが……」


 深雪は、学園長の意見を黙殺する。


 この学園の生徒は、ほとんどが銃を携帯しているので不審者程度にはそう簡単に後れを取らない。その自信故に不審者を見たら捕まえろといっている訳だ。もし不審者程度に後れを取る様な生徒ならこの学園は卒業できない。


「きっと盗撮魔に違いないもん! 見つけ次第射殺……いたっ! あうっ! 冗談だよ冗談! それ位の心構えで捕まえなさいという意味だもん……。ハリセンはやめて~っ」


 深雪は、刀樹のハリセンによる一閃を間一髪で避けつつ悲鳴を上げる。


 その癖、嬉しそうな顔をしているのは、好きな人に構ってもらえるからなのか……


 他の者達から見たら恋人同士の馴れ合いに見える。 


 うぜぇ、マジうぜぇ。


 クラスの生徒と大人二人の心の声が一つになる。


 刀樹としては結構本気なのだが、深雪も一年以上上司をやっいているだけあって、刀樹の癖を掴んでいる。攻撃のパターンも毎日、シバかれていると自然と体に染み付くのだ。


「あ~、二人がラブリーな事は分かったぞえ。だから、お前ら退いていろ」


 蓮大寺先生が二人の頭を鷲づかみにして先頭の席に座らせる。


 どさくさに紛れて学園長も後ろの席に座っている。今日は参観日じゃないぞ、という刀樹の声は当然のように黙殺される。


「メイド喫茶? どんなものかはよう分からんが……。文化祭モドキが始まるのは一週間後じゃ。今日から突貫工事で作業せねば間に合わぬぞ。学校の整備でこの一週間はクラスの半分を徴されるからのぅ」


「人手が足りないのであれば第一生徒会師団を招聘して一日で作業を終わらせて見せてみせますぞ!」


 第一生徒会師団長の栗林・綾乃が勢いよく立ち上がる。


「あれ、いたの。気付かなかった」


 深雪の声に思わず刀樹も頷く。


 とばっちりを受けないように隠れていたのだろう。さすが生徒会役員だけあって深雪の恐ろしさを理解している。だが。今回に限っては蓮大寺先生と学園長も加担しているが……


「メイド喫茶をするというのなら我が第一生徒会師団を全力投入します。いいですね!」


 ギロリと綾乃は深雪を睨む。


「う、うん……別に……」


 刀樹は、深雪が圧倒される瞬間を始めて見た気がした。


「オイオイ、本気で呼ぶ気か?」


「呼びますそ。超呼びます!」


 綾乃がちょっと怖くなってきた。


 普段は真面目でクールな子なのに。


「じゃあ、そちは看板娘じゃのぅ……」


「いいですねいいですね! それなら師団長直轄の砲兵大隊もセットで付けますぞ!」


 砲兵大隊……看板娘と同列に扱われていた。


 連中が聞いたら生徒会棟に15・5サンチ砲弾を撃ち込みかねねぇぞ……。生徒会棟の壁に装甲でも装備するか。


「しかも、服なんてフリフリのヒラヒラじゃぞ」


「いいですないいですな! 生徒会艦隊も巻き込みましょう!」


 五十那が聞いたら発狂しかねない。というか権限も妄想もとっくに危ないレベルを越えている。もう、好きにしてくれ……。


「ダメだよ! 生徒会長としてそれだけは承認できないよっ!」


 近江学園最強のストッパー深雪が立ち塞がる。


 よし! いいぞ、言ったれ言ったれ。


「大体、第一生徒会師団も学園祭の準備に投入されてるんだよ! このクラスの出し物だけに協力できないよ!」


 そうだ。全くもってそうだ?


 ついでに言うと生徒会艦隊も陸戦隊となって学園祭の準備に借り出されるので人員に余裕はない。当然、空軍も飛行訓練中の生徒も飛行機から引きずり下ろして手伝いをさせるので余ってる人員は無い。


「では、戦略宇宙軍から……」


 やむ終えませんな……とでも言わんばかりに綾乃は首を振る。


 ちなみに、戦略宇宙軍とは文字通り宇宙空間にいる軍の事で、航宙要塞や宇宙艦艇に乗って宇宙空間から地球上に睨みを利かしている。一番最近にできた軍でもあり、世界中を探してもこの近江学園都市にしかない。


 ついでに言うと戦略宇宙軍はあくまでも地上で戦っている軍を支援する軍で、異星人と戦ったり、14万8000光年彼方に旅をしたり、ビームサーベルを持ったロボットで「あなたってひとはっ!」なんて叫んだりして戦うなんて事もない。


 あるとすれば偵察衛星から「髪の毛薄いよ! 何やってんの!」くらいだ。


 いや、意味分からんけど……。


「生徒のほとんどが宇宙にいるのにどうやって地上まで引きずり下ろすかな! 私にだってできる事とできない事があるもん!」


 へぇ……深雪にもできない事があるのか……。初耳だ。全くもって初耳だ。


「それにこのクラスの出し物は、巫女喫茶に変わったんだもん!」


「いつですか! 誰が決めたんですか!」


「今、私が決めたの! 文句ある! ある人は退学!」


 綾乃の問いに即答する深雪。


 見ていて清々しいくらいに強権を振りかざす。


「巫女服なんて剣術の授業で着る道着の色違いですぞ! 可愛くも何ともないではありませんか!」


 一部の男子と学園長は、とんでもないという顔をしている。


「日本人なのに西洋文化にかぶれて……恥ずかしくないのかな!」


 なんか方向性がおかしくなってきた。


「古い考えに縛りついていると時代に取り残されますよ。大体、何故に巫女がいいんですか!」


「刀樹くんの趣味だもん! 文句あるのかな!」


 堂々と本人も初耳な事を言い放つ深雪。


「友よ! 戦友よ! 分かってるではないかっ!」


 学園長がガシッ と、刀樹を抱きしめようとする。


 当然、加齢臭漂う中年に抱き付かれても青少年としては全く嬉しくないので、走ってきた中年を背負い投げで机の海に沈める。


「文句大有りだ! 勝手に俺の趣味にするんじゃねぇよ、もっとマトモな切り返し方はねェのか!」


「なによぅ! 刀樹くんは巫女服よりメイド服のほうがいいって言うのかな!」


「それ以外の選択肢はねェのか! 俺の趣味を勝手に増やすな……」


 頭を押さえる刀樹。最近、刀樹の変なイメージを周囲に植えつけているのは深雪だった。


「では、スクール水着ですな」


「もっとおかしいだろうが!」


 大体、スクール水着で喫茶店をする、なんて言ったら風紀委員会の治安維持部隊が突入してくるに違いない。


「生徒会艦隊は女の子の生徒はスクール水着だね……。 っ! もしかして生徒会艦隊に好きな子でもいるの! 私は認めないもん! 私刑だよ死刑だよ」


 プンプン怒っている深雪。


 別に、刀樹としては生徒会艦隊に意中の人がいるわけでもないし、スクール水着が好きなわけでもない。ついでに言うと、生徒会艦隊でもスクール水着を着るのは遠泳の時くらいだ。常に着ているわけじゃない。


 粛清よ、粛清! と、共産主義者顔負けな表情で、机をバンバン叩いている深雪を諦めの境地で無視する。


「あんなものを着て学園を歩き回れると思っとるのか……」


「パンティーじゃないから恥ずかしくない、みないな感じだよ」


 いつから生徒会艦隊は、魔女飛行隊になったのだろうか? 確かに旧式とはいえ航空母艦もあるが。


「まぁ、諸君落ち着くのじゃ。出し物はめんどくさいのでメイド喫茶にするぞえ。反論は認めないぞよ」


 教師としてあるまじき態度だが、壊滅しかけている生徒達は力なく頷く。


 学園長も嬉しそうな顔で頷いている。


 きっと、女子生徒のコスプレが見たいだけに違いない。


 深雪も自分に賛成してくれる人がいない状況では勝ち目がないと見たのか、不機嫌そうな顔で黙り込む。あとで生徒会棟には暴虐の嵐が吹き荒れるに違いない。


「作業の指揮は綾乃がとるのじゃぞ。だが、自分の職務の妨げにならんほどに じゃからな」


 我等が担任の命令に、笑顔で敬礼する第一生徒会師団長であった。



 

 

 

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